万能ツールで現場改革を!

僕は翼。DX推進室のエース(と、自分では思っている)。
「この最新タブレットさえあれば、現場の報告業務は劇的に効率化されるはずだ!」ピカピカの端末を手に、僕は成功を確信していた。
現場で使われない最新タブレット

しかし、導入から一ヶ月。
現場の机の隅で、タブレットはホコリをかぶっていた。
「どうして使ってくれないんですか?こんなに便利なものなのに…」僕のイライラは募るばかりだった。
そんなある日、僕はベテラン作業員のゲンさんを見かけた。彼は、分厚い手袋をつけた手で、タブレットの画面を何度もタップしている。
しかし、画面はうんともすんとも言わない。「チッ、使えねえな…」
現場のリアルな壁 ― 手袋と太陽と操作性

僕は慌てて駆け寄った。
「ゲンさん、手袋を外せば…」
「馬鹿言え。一日に何十回も手袋を外したり着けたりできるか。それに、この太陽の下じゃ画面が何も見えん」ゲンさんの言葉は正論だった。
別の場所では、若い作業員が頭を抱えていた。たった一つの数値を入力するのに、いくつもの画面を遷移し、小さなキーボードで文字を打ち込んでいる。
「すみません、これ、前の紙のチェックシートの方が断然速いです…」
万能ナイフよりも一本のドライバーを

僕はようやくゲンさんの元へ向かい、正直に教えを乞うた。
「どうして、みんなタブレットを使ってくれないんでしょうか?」
ゲンさんは、ため息をついてこう言った。
「翼くん。あんたは俺たちに『万能ナイフ』を渡してくれた。確かにすごいよ、缶切りもハサミも付いててな。だがな、俺たちが一日中やっているのは、ネジを締める作業だけなんだ。欲しいのは、最高のドライバー一本なんだよ」
ゲンさんの言葉に、僕は頭を殴られたような衝撃を受けた。
高機能、多機能…そんなスペックばかり追いかけて、一番大切な「現場の仕事が、本当に楽になるのか?」という視点が、完全に抜け落ちていたんだ。
現場に寄り添うDX ― 翼の再挑戦

僕はすぐに計画を練り直した。
手袋でも操作できる頑丈な端末を選び、アプリは「報告」ボタン一つだけの超シンプルなものに作り替えた。
そして、彼らにとっての価値を丁寧に説明して回った。
新しいタブレットは、今では現場に欠かせない「最高のドライバー」になった。
DXとは、最新技術を押し付けることじゃない。
現場で働く人々に寄り添い、彼らの仕事を本当に楽にするための、地道な翻訳作業なんだ。

デジタル化を進めても、生産性の“最後の3割”が超えられない。
それは、あなたの現場だけの問題ではありません。
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現場の空気が変わる瞬間を、共に作りませんか。